この植物園について

はじめに

「新たな薬用植物園に」15代目園長 小林 義典(2013年4月~)

photo01薬学部附属薬用植物園は1965年7月に福島県二本松市の大学実習所内に開設されたのに始まり、相模原キャンパスには1972年には薬学部附属施設として設置されております。その後、薬用植物園は歴代園長や教職員のご努力で、国内指折りの薬用植物園に育ってきましたが、さらに、2011年に大学病院新病院建設に伴う相模原キャンパス整備計画の一環で、試験栽培圃場が駐車場に転用されることから、2010年3月に第一グランド内に1,400m2の新たな研究圃場が設置されました。系統保存を目的とした薬用ボタンの栽培や、光条件など環境の異なるビニールハウス(64.8m2)が2棟建てられ暖地性植物や希少薬用植物などの育成にあたっています。一方、バイオガーデンは整備計画により全体の1/5にあたる樹木区約1,000m2が駐車場に変わりました。教育展示用の植物が減少するなかで、今後植物コレクションの質を落さないようバイオガーデンの管理運営方法が問われています。

薬用植物園の園長には、2013年4月に小林義典が就任しました。2009年3月には石川寛助教が着任しております。石川先生は千葉大学大学院自然科学研究科の博士課程を修了されており、一貫して植物分類学を専門としております。2018年4月には定年退官された福田達男准教授の後任として、古平栄一准教授が着任しております。古平先生の前職は武田薬品工業株式会社京都薬用植物園で、遺伝資源としての薬用植物を栽培・維持するとともに、生きた教材を用いての薬学教育支援に携わっていました。生薬の基原植物に関する研究や多種多様な薬用植物の繁殖・栽培など貴重な体験をしており、今後も企業で得た知識や技術を北里大学で生かしたいと言っております。

薬用植物園にはこれまで先人達が集めた貴重な植物が多数ありますが、その中で南米産のGuarana(Paullinia cupana)は種子にコーヒーの5倍のカフェインを含むことで有名ですが、この植物は北里大学のドーム温室にしかないと思います。しかも昨年一昨年と開花しております。また、緑内障の治療薬で有名なピロカルピンの原料植物で有名なJaborandi(Pilocarpus microphyllus)も大変希少な植物で、ドーム温室では旺盛に生育し毎年開花しております。その他、日本薬局方収載生薬の基原植物でも貴重なコレクションがあります。また、当園では、本学薬学部生薬学教室や医薬基盤・ 健康・栄養研究所薬用植物資源研究センターと共に日本医療研究開発機構(AMED)の「創薬基盤推進研究事業」において「薬用植物種苗供給の実装化を指向した開発研究」に取り組んでいます。具体的には、生薬学教室と共同で、ヒロハセネガ、トウキおよびセンブリについて発芽に及ぼすメカニズムの解明を進めています。発芽率や発芽勢がよい優良な種子を選別することができれば,初期の育苗時における農業生産者の労力を軽減することができ、生薬の国産化及び品質向上に向けて寄与できます。さらに、これとは別に生薬「菊花」の基原植物であるシマカンギクの野生種を系統ごとに生息域外保全し、ルテオリンやアピゲニンといったフラボノイド類を指標とした品質評価、地域ごとの栽培に適した系統の選抜と栽培法の開発にも取り組んでいます。北里大学の薬用植物園は、本来のミッションとして求められている教育や地域貢献のみならず、生薬の国産化にも寄与できる植物園であるよう努力を続けたいと考えています。